短編小説
~The children of a curse~
「さぁ、始めよう。僕たちに不快感を与えるものへの天誅を。」
「僕たちが気にくわないものは全て抹殺しよう。」
「僕の力を認めないものへの捌きを下そう。」
夕暮れ時の暗い教室で、子供たちがボソボソと話をしている。
子供たちの背格好からして、小学生だという事がわかる。
「僕たちは選ばれた人間なんだ。全ての不要な存在へ天誅をくだそう。」
3人いる子供のうち、一人の男の子が言う。
「僕たちにウルサイ大人たちを、みんな消しちゃおう。」
「そうしよう。僕たちは力を与えられた存在だから。」
二人の男の子が最初の男の子に続いて言う。
「「「僕たちには力がある。いらない存在を、僕たちにはむかうモノに天誅を。」」」
三人の男の子が、夕暮れ時の暗い教室で声をそろえて言う。
その姿を、その会話を聞くものは、三人の男の子だけ・・・・・・。
次の日の朝、昨日の夕暮れ時とは、まったく異なる明るい教室に、沢山の子供がいた。
教室中に子供たちの声が鳴り響き、一人の大人、教師が授業をしている。
そこに、昨日の三人の男の子の姿はなかった。
「今日は三人欠席か。風邪かしら?」
教師がそれに気づいて心配そうな顔をした。
時間が経つのは早いもので、人々が気づく頃には夕暮れ時になっている。
夕日が赤々と世界を照らし、その色は教室すらも容赦なく赤く染め上げる。
そして、真っ赤な教室にいるのは三人の子供たち。その子供たちの手には、意味不明なものが握られてた。
「持ってきたか?」
「あぁ。」
一人の男の子の問いに、残りの二人が頷いて答えた。
「僕はナイフとコップを。」
「僕は数珠と蝋燭を。」
「僕は紙とマッチを。」
三人の男の子はそれぞれ持ってきたモノを見せ合いながら笑った。
その笑いは、押し殺したような苦笑いだった。
「それじゃあ。」
「それじゃあ時間だ。」
「僕たちの気に入らない存在へ天誅を。」
三人の子供たちがニヤニヤと笑いながら話す。
そして、一人の少年が一呼吸置いて、ナイフを手に取った。
「サー・ドゥラー・アス・ゾダー・セー・ゾダー・サー・ゲイドェ・ルラー・・・・・・」
ナイフが天へと掲げられ、そこから額へ、首へ、左肩へ、右肩へと、流れるように動いていき、そして最後に胸の前で止まる。その間、意味不明な言葉は、独特の口調で、独特の声の振動で、一人の男の子の小さな口から紡ぎだされる。
「天宗真火 発降誠光 書禁応化 大勅真尊 摂応道周 袁替!」
男の子は続けて妙な言葉をはっした。その言葉は七回ほど繰り返される。
「混沌に、邪に、天に、魔に、一時の契約と血を!咲邪鬼冠有怖伏者急々律令。」
そう唱えながら、男の子は手首をナイフで切った。
手首から流れ出る血は、一滴のこることなく、コップの中へと落ちていく。
残りの二人の男の子も、一つも違わず、まったく同じ事を繰り返した。
コップには、三人の子供の真っ赤な血が溜まっていく。
その血は、夕日の赤を反射して、さらに赤く赤く燃え上がる。
「天空の軍勢、六の大邪神、雷と稲妻を知り空を汚し悪疫をもたらすもの。」
「アエリアエ・ポテスタテスの名を持ちかたる邪、形と気を示せ。」
二人の男の子が歌うように唱える。
一人の男の子はその間に、蝋燭にマッチで火をつけ、数珠を天へと投げる。
「我、神付名のことアサスセスラステサムエスダエル、持ちかたる。」
一人の男の子が言葉を紡ぎながら紙に自分の血で文字を書く。書かれた文字は『アサスセスラステサムエスダエル』。
「我、神付名のこと九天玄奘三聖三魂生光御神、持ちかたる。」
また一人の男の子が言葉を紡ぎながら自分の血で文字を書く。書かれた文字は『九天玄奘三聖三魂生光御神』。
「我、神付名のことラステサルリスエス・だいぜるふ、持ちかたる。」
また一人の男の子が言葉を紡ぎながら自分の血で文字を書く。書かれた文字は『ラステサルリスエス・だいぜるふ』。
「「「三士生士を欲しアエリアエ・ポテスタテスきたれ。」」」
三人が一瞬遅れることなく声を揃えて言う。
そして、血で文字が書かれた紙を蝋燭の火で燃やしていく。
燃える紙を見つめる子供たちの眼には光はなく、闇が渦巻いている。
子供たちは、教室の異変に気づいているのだ。
この妙な行為を始めてすぐに、教室は得体の知れない何かで覆われていた。それはただ黒くて、ただ暗い存在。その存在が、妙な行為、俗に言う儀式を進めるにつれて、確実にはっきりしていき、今では何なのかがわかる。その存在は悪魔だ。暗い重い邪の空気を出し、無量の威圧感を子供たちにあたえていた。
そして、その存在はついに、子供たちの最後の言葉で、その姿を現実世界へ現した。
「我、汝への令、天の裁き代行者を行なう。」
一人の男の子が異形の姿をしたモノに話しかけた。その答えは、男の子の中では決まっていた。なぜなら自分が支配する儀式だからだ。
しかし、異形の姿が返した言葉は予想外のものだった。それは、ここにいる全ての者が予想しなかったことだろう。
「・・・・・・・・・・・・・・下等の指図は受けない。」
その一言が、異形のモノから紡ぎだされた。
その言葉とほぼ同時、青い光が、一人の男の子に直撃した。それは、雷だった。男の子たちは、何が起きたのか把握するのに、相当な時間を費やした。自分たちの予想した事態と違いすぎたからだ。違いすぎたというよりかは、まったくの正反対なのだ。子供たちは、転地がひっくり返った感覚だった。
「なんで?なんで?どうして?僕たちは何も間違えなかったのに。」
「どうして?僕たちには力が・・・僕たちは選ばれた存在なのに。」
二人の男の子は、目の前で真っ黒に崩れた、一人の子供の死骸を眼で見ながら言う。
その眼には涙が溜まっていた。
「うっ・・・・・うわぁーー!!」
一人の子供が、突然狂ったように走り出した。
異形のモノはそれを眼で追うと、一瞬睨んだような雰囲気をだした。
その瞬間、走っていた男の子に、稲妻が直撃する。その青く冷徹な光は、一瞬にして人間を黒い固まりへと変えてしまった。
「どうして・・・・なんでこんな事に・・・」
一人取り残された男の子は、すでにものを考える事などできなかった。目の前で起こる出来事をただ、見ていることで精一杯だ。
そして、次に狙われるだろう自分の末路を想像して、体をブルブルと震わせていた。
しかし、異形のモノはその想像を裏切る行動をとった。その行動は完全に予想を外れたものだった。
異形のモノは、取り残された男の子を一度睨むと、何もせずに消えてしまったのだ。
男の子は、何が起きたのかわからず唖然としていた。
どのくらい時間が経ってからだろうか。教室に大人たちが入ってきた。
外が完全に暗くなっているのを見ると、異形のモノが消えてから何時間かが経った頃だろう。
大人たちは、教室の惨状をみてビックリしていた。それもそのはず、教室は異形のモノによって廃墟と化していたのだから。
「いったい、何があったの!?」
大人たちが焦った顔で言う。
「・・・・・・・・・・・。」
男の子は何一つ言葉にしない。
「なぜ、僕だけ生き残ったんだろう。なんで僕は今、こうして息をしているの?僕だってみんなと一緒に強大に手をだしたのに・・・・・。僕だけおいてけぼりなの?僕はみんなと行けないの?僕だけどうして生きてるんだよ!!なんでだよ。僕はみんなと違うっていうの!?・・・・・・」
男の子は、突然、狂ったように叫び始めた。その様子は、完全にどこか異常だった。
「・・・・・・そうか、僕はみんなとは違うんだ。僕は選ばれたんだ!そうか、僕だけが力があるんだ。僕は選ばれしものだ。」
男の子が、突然笑いながら言う。
「ちょっと、恭介くん!?どうしたの!?大丈夫!?」
大人が恭介と呼ばれた男の子に近づいていく。
「うるさい!僕は選ばれたんだ!僕に馴れ馴れしくするな!!」
恭介と呼ばれた男の子は、近づいてきた大人に言い放った。
「・・・・本当にどうしたの?」
大人は、心配そうな顔で男の子を見ている。
「ふん。僕は大人の力なんか必要ない。僕は選ばれたんだから!」
恭介と呼ばれた男の子は、それだけを言い放つと、教室を出ていった。
そしてその後、恭介という男の子とその家族の行方はわからなくなった。
現在、高校生に恭介と言う男がいた。
その男は、今日も普通に高校へ通う。その男の瞳には、黒い影が渦巻いていた。