雲一つない空を太陽が赤く染めて眩しく輝いている。
大地は太陽に照らされ橙色になり夕方の独特の世界を作り上げている。
時より吹く風がなんとも心地よく心の傷が洗われる様でもある。
田舎の道なのかまわりはビルや住宅はまったくなく見渡す限り田んぼや畑ばかりだ。
そのせいか道は夕方の太陽に限りなく染められている。
そんな世界の中に一つの影が伸びていた。
その影はどこか頼りなく揺ら揺らとユックリ動いていた。
その夕方の太陽に照らされ出来た影を伸ばしている少年はさらに頼りなく揺ら揺らと歩いていた。
影を伸ばしている少年は中学生くらいの年齢に見えた。名前は佐久間一(さくまはじめ)というごく普通の中学生のようだ。
一はただ空を眺めていたなんの目的もなく空を眺めている。時より視線を落として太陽に染められた大地を見ながら。
時より吹く風は昔は気持ちよかったはずなのに今はとても心に沁みた。
「はぁ・・・・。」
一はただ溜息をつく。
溜息は何度も何度も止まることなく出た。
「もう・・・どうでもいいかなぁ。」
一は誰に聞かせるでもなく一人呟いた。
しばらく空を見続けていた一は昔の事を思い出していた。
今はもう薄れてしまっている記憶を頭の中で思い出している。
時より思い出す恥かしかったり面白かったりする記憶で一は一人笑みを溢したりしていた。
思い出せる記憶を一通り思い出したのか、一はもう一度空を見る。
「・・・・もう、未練もないのかなぁ・・・俺は。」
一は誰に聞かせるでもなく呟くと歩を早めた。
その歩は家にも向かわず、どこへも向かわずただ進んでいる。
どんどん歩を早めていって立ち止まったところは自殺の名所だった。
そこは、大きな廃墟のビルだ。一が生まれる前から立っているこのビルは昔から何人もが屋上から飛び降りていることで有名な自殺の名所。
一は自殺を決意していたのだ。それは誰かに決められたわけでもなくフザケ半分でもなく真面目に一が決めた事だった。
「・・・もう、俺の人生に期待する事はない。・・・俺は決めたんだ。」
一は自分に言い聞かせるように呟いた。
一つ大きく深呼吸をすると一はいっきに大地に身を投げ出そうとした。
「ぇ!?」
一は誰かに呼び止められた気がして振り返った。
振り返った先には誰もいない。
それは、あたりまえの事のはずなのに一はどうも気になった。
一はもう一度深呼吸をした。そして、気を取り直して今度こそ身を投げ出そうと意気込んだ。
「・・・・一君。」
今度は聞き間違いや空耳じゃない。一は誰かに呼ばれたことを確信して言い返した。
「誰?・・・。」
一はどこから声がするのかわからず辺りを見回しながら言う。
「ここだよ。」
一は声のした方向をありえないといった表情でみた。
一が見た先は空だ。一は驚きながら自分の頭上を見ていた。そこには確かに一人の少女が浮かんでいるのだ。
その少女は一より少し若く見えた。少女の顔立ちはとても整っていてそれでいて幼い感じがするなんともいえないものだった。少女の服装は白のスカートに白の服、さらに白のコートを着ていた。
少女はどこか神秘的な空気を出していた。それはまるで死神のようで天使のようでもある不思議な空気だ。
少女は笑顔で一に話した。
「まだ死んではいけない。」
少女に唐突に言われた一言に一は驚きを隠せずにいた。
一度もあったことのない人間に言われたのだから当然だろう。
「キミはいったい誰?それに・・・浮いている?」
一は混乱しながらも言葉を捜しながら少女に言った。
「私は助言者(じょげんしゃ)です。浮いているのは、私はこの世界のものではないのですから容易い事ですしあたりまえのことです。」
助言者と名乗る少女が一に向かって笑顔で答えた。
「・・・頭は大丈夫?」
一は笑いながら助言者と名乗る少女に言った。
「もちろんです。あなたこそ頭は大丈夫なのですか?」
助言者は軽く頷いたあとに一に同じ質問を返す。
「どういう意味だよ。」
一は軽く睨んで言う。
「そんな歳で命をたとうなんて頭がどうかしてるとしか思えません。」
助言者は目を鋭くして一に言った。
「お前に何がわかる。お前には俺を止める権利なんかないはずだ!」
一は声を荒げて言った。
「誰かの命を助けるのになんの権利もいらないはずです。あなたはまだ死んではいけない。あなたの人生はこれからなのだから。」
助言者は一から目を逸らさずに冷静な声で静かに優しく言った。
「何様のつもりだよ!お前に何がわかるんだ。俺の人生はもう終わってるんだよ!」
一は心に浮かんだ言葉をそのまま助言者に叫んだ。
「私は助言者です。世界の全てを知るものでもある。あなたの人生はこれからです、私が保証します。」
助言者は鋭くしていた目をさらに鋭くして言い放った。
「そんなの知るかよ。俺はもうここで今日死ぬと決めたんだ。」
一は声を荒げて叫ぶ。
「今、ここで死ぬとあなたは確実に後悔します。今までのあなたの人生は全てあなた自身がつぶしていたもの。あなたならまだ光を手にできる。」
助言者は一に笑顔でそう言った。
「お前が何を知ってるというんだよ!今日あったばかりの人間が俺の何を知ってるんだよ!!」
一はさらに声を荒げて叫んだ。
「私は世界の全てを知る存在。あなたの事ももちろん知っている。その上であなたは死ぬにはまだ早いと助言しているのです。あなたはまだ世界の楽しさを知らない。まだ友と呼ぶものを知らない。人生の明るさを知らない。あなたはまだ生きなければならない。これからもっと世界の明るさ風の心地よさ、人生の楽しさ生きるということの喜びを思い出したり知ったりしなければならない。あなたの魂はこれから輝きだすのです。」
助言者は淡々と話す。
「お前はそんな適当な事を言って楽しいか?ただ誰かに構ってほしいだけだろ?俺じゃなくたって他の奴に遊んでもらえよ。俺は遊びじゃないんだ。」
一は助言者を睨みつけて冷淡に言った。
「適当ではありません。それはあなたの心の中の言葉。あなた自身の事を言ってるようにしか私には聞こえません。あなたは死ぬ事を遊びじゃないと言った。それは存在する生物全てがそうはず。死が遊びじゃないなら生も遊びじゃないはず。あなたは生を遊びと思いますか?生と死は表裏一体の存在。しかし生を貫き通すのは難しいのに死は簡単に手に入る。それは今のあなたのように死を手にすれば全てが楽になると考えるものが多いから。しかしそれは間違いです。死を手にするのは楽だけれど手にした後は楽も難もない。無という恐怖がまっています。あなたは死より生を手にするべきです。」
助言者は淡々と自分の意見を一にぶつけた。
「・・・・・お前は何者なんだ?なぜ俺に構う。」
一は目を鋭くして言う。
「もう一度言います。私は助言者、世界の全てを知る存在です。あなたの全てを知っている上であなたに助言します。あなたは死ぬにはまだ早すぎる。」
助言者は一の言葉に淡々と答えた。
一は助言者が言った言葉を何度も自分の頭の中で繰り返した。今まで助言者が言った言葉を思い出しながら。
一が助言者の言葉を頭で繰り返していると助言者が口を開いた。
「あなたは本当はまだ死にたくないはず。あなたはただ生の世界で存在し続ける困難さに押しつぶされそうになっただけ。それはあなたが一人で生と言う世界を乗り越えようとしたためです。今度は誰かと生を分かち合って見てください。」
助言者は優しい口調でゆっくりと話す。
「・・・・お前は本当に・・・なぜそんな事が言える。」
一は鋭くした目をそのままにして助言者に言う。
「何度も言いますが私は全てを知る存在です。あなたには未来があります。過去に振り向かず未来を見つめてください。あなたを待ち、あなたを必要とする存在がいるはずです。あなたに光と生という暖かさをくれる存在がいるはずです。」
助言者は踊るように大袈裟にしぐさをつけて言う。
「なぜ俺をそこまで生かそうとする。」
一はまた助言者に質問をする。
「それは簡単な事です。何度もいいますがあなたは、まだ死ぬには早すぎる。そしてあなたを必要とする存在がまだいるから。」
助言者がすぐさま答えた。
「・・・・もしこのさき生きててもつまらないままなら俺はきっとお前を怨み呪い殺すぞ。」
一が助言者を睨んで言い放つ。
「面白いかつまらないかは、全てあなたしだい。それはあなた以外の誰にも決められないこと。あなたが自分の生の世界をどう作りどう動かすかはあなたにしか決められないから。それでも生きている限り楽しい事はいくらでも作れるはずです。」
助言者がまた踊るように言った。
「・・・つまり、俺自身でいくらでも楽しい世界は作れると。」
一が助言者に聞く。
「その通り。あなたにはそれだけの資格と才能がある。」
助言者は一度深く頷いて言った。
「・・・・・そうだな。あとちょっとくらい生きてからでも死ぬのは遅くないかもしれないな・・・。」
一は空を見ながら呟いた。
何時間ぶりだかに見た空はなん色にも分かれていて一番天辺の方はもうすっかり夜色に染まっていた。
一は少し空眺めた後、助言者と名乗った少女に一言言おうと助言者のいた方を見た。
そこには助言者の姿は跡形もなかった。
ただ冷たそうなコンクリートの壁がそこにはあるだけだった。
それでも何故か一には笑顔で去っていく助言者の姿がはっきりと想像できた。
一は一人ビルの屋上から世界を見渡しながら助言者の言葉は人生で最大のプレゼントかもとそんなことを考えていた。
助言者にあってから1週間が過ぎようとしていた。
一は一から人生をやり直そうと引越しをしていた。引越し先では助言者の言っていた生をめいっぱい楽しもうといろいろ頑張ったはずだ。
そのせいか、友達と呼べるものは何人もいて、楽しいという言葉も理解できた気がする。
あんなに心に沁みた風はいまではどこか心地よい気もしてくる。
一は助言者を一生忘れないし神と崇めるだろう。
「今、メッチャ楽しいよ。」
一はどこに居るかもわからない助言者に一人呟いた。
「いい人生を。」
助言者もまた別の世界の一という少年に呟いていた。