徐々に日が沈み、世界と闇が一つになろうとする。そして、辺りからは人の気配が徐々に薄れてくる。
そんな中、幾人かの若者が影を伸ばして歩いていた。
周りにはほとんど人はいないが、そこは昼間はそこそこ人通りのある道のようだ。
その幾人かの若者たちは何かについて真剣に話し合っているようだった。
「なぁ天宮。今度は夜跡山(よるあとやま)にいってみようぜ。」
一人の男が言う。
「渡辺は元気がいいなぁ。またガセじゃないの?」
天宮と呼ばれる男が渡辺に微笑しながら言う。
「でもあそこはマジって噂だよ。やばいんじゃない?」
一人の女が話しに混ざってくる。
「なに?羽瀬、恐いんなら別に一緒に来なくてもいいよ。」
渡辺は話に混ざってきた羽瀬に笑いながら言う。
「羽瀬さんが行かないなら私もやめようかな・・・。」
細身のいかにも病弱そうな女が言う。
「宮ノ下あんたねぇ、誰もいかないなんていってないでしょ。」
羽瀬は細身の女、宮ノ下に呆れ顔で言う。
それを見て宮ノ下は楽しそうに笑顔で頷いた。
4人は同じ学校に通い、その学校の部活で一緒になり仲良くなった仲だ。その部活の名前は非科学研究部という。しかし、周りからはオカルト研究部といわれているようだった。
その理由は活動内容にあった。非科学研究部の活動ないようは心霊スポットの検証。ポルターガイストの実験などなどだ。
そして現在、夜跡山に心霊検証に行くという話をしているのだ。
「では4人とも行けるようなので今夜11時に夜跡山の入り口前に集合。」
話を区切るように渡辺が言う。
それに残りのものが返事をして、個々に家へ向かって歩いていった。
その時、すでに世界は夜という闇に包まれていた。そのためか人の気配はまったく感じられなかった。
PM10時40分、渡辺は夜跡山の入り口に立っていた。
辺りは耳鳴りがするほど静まり返っていて時より大きく響く木々のざわめきが渡辺に少なからず恐怖という感情を与えていた。
人の気配はなく、夜の闇の中で孤独感さへ感じてしまうほどの冷たい空気を夜跡山は放っていた。
PM10時43分、羽瀬が夜跡山に到着した。
私服に包まれた羽瀬はさきほどまで一緒だった制服姿の羽瀬とはまた別の魅力を出しているように感じた。
渡辺は羽瀬の姿を確認したとたん、さきほどまでの孤独感と恐怖が和らいでいくのを感じていた。
「皆もすぐに来るよ。」
羽瀬は笑顔で言う。
「よかったぁ。俺あと数秒ここで一人だったら泣き出してたよ。」
笑いながら渡辺は言う。
それを見て、羽瀬も一緒に笑う。
「悪い。遅くなった。」
少し離れたところから男の声が聞こえてくる。その声は渡辺も羽瀬もよく聞く声だ。その声の主は天宮だ。すぐ後ろには宮ノ下もいるようだった。
「よし。全員集まったな。ではまずは夜跡山の素性を聞こうか。」
渡辺が微笑して言う。
「素性って言い方は辺だろ。」
天宮が笑いながら言う。
「ではそれについては私、羽瀬が説明します。」
羽瀬は胸を軽く自分で叩いて得意そうに言う。
「ちなみに情報集めなどは私がしました。」
宮ノ下は恐縮そうに言う。
「てことは宮ノ下が調べたことを羽瀬は発表するだけか。」
渡辺と天宮は苦笑しながら言う。
羽瀬は一度、わざとらしく堰をして話を進めた。
「まず夜跡山の名前の由来は、朝から夜まで一日、一年を通してずっと日が差し込むことなく闇に覆われているかららしいです。朝も昼もいつも夜の跡を残している、そんなところから夜跡山という名前がついたということです。」
羽瀬の話を聞いて渡辺と天宮は感心している様子だった。
「そして本日のメイン、夜跡山にまつわる怪談話ですが・・・・いくつか調べてきました。」
「おお!待ってました!!」
渡辺は飛び跳ねて言う。
「ガセでないことを祈るよ。」
天宮が苦笑して言う。
「たぶん半分はガセでしょうに・・・。」
宮ノ下は苦笑いで言う。
「で・・・怪談は全部で4つあるようです。名づけて夜跡山の七不思議。」
羽瀬は恐怖を感じさせる顔をして言う。
「名前などどうでもいい。」
渡辺が言う。それに賛成するかのように天宮と宮ノ下が頷く。
「人がせっかく盛り上げようと5分前から考えておいた名前を・・・・」
「たった5分かよ・・・・。」
羽瀬の言葉に天宮はため息をついて言う。
「では発表します。第一の怪談・・・・夜10時以降に夜跡山に入ると道がわからなくなり帰れなくなる。そして迷った人は必ず鬼婆に遭遇して食べられてしまう・・・・。そして第二の怪談・・・頂上へ向かう道の途中に赤いスカーフをしたお地蔵さんがいる。そのお地蔵さんの前を夜に通ると突然お地蔵さんに話しかけられるらしい。そしてお地蔵さんの方を見ると刃物をもったお地蔵さんがいてズタズタに切られてしまう・・・。第三の怪談・・・夜の夜跡山を歩いていると後ろからつけられている感覚に襲われる。そして振り向くと下半身がない少女が肘を使って這いずり回っていて、その少女に襲われてしまう・・・・。最後の第四の怪談は・・・他三つの怪談を知っているものが夜跡山に入ると夜跡山に住む霊に襲われて存在を消されてしまう・・・。以上です。」
羽瀬の話が終わって、あきらかに場の空気は重たいものへと変わっていた。
「もっとガセっぽい漠然とした怪談かと思っていたけど・・・なんか怪談だ・・・。」
渡辺が苦笑しながら言う。
「漠然としてるのはお前の感想だよ。」
天宮が渡辺に言う。
「ということで夜跡山に潜入しますか。」
羽瀬が場を促すように言う。
そして4人は山の闇の中へ消えていった。
夜跡山に入ってすぐに宮ノ下は異変に気づいていた。
あきらかに後ろから何かがついてきていた。そして第三の怪談の話がすぐに頭をよぎった。下半身のない少女かもしれないと・・・。
「ねぇ・・・後ろから何かがついてくるよ。」
宮ノ下は他の皆に静かに言う。
「わかってるさ。絶対に振り向くなよ。」
渡辺は冷や汗をかいていた。
「気配も人間のものじゃない・・・それくらいすぐにわかるさ。」
天宮の顔はすごく青ざめている。
羽瀬にいたっては今にも倒れてしまいそうな感じだった。
宮ノ下を始め、全員は後ろから聞こえる音に耳をかさないように早足で歩き始めた。
ズリ・・・・・ズリ・・・ズリ・・・・ズリ・・ズリズリ・・・ズリズリズリ・・・
あきらかに何かを引きずる音、その音は早足で歩いている4人から一向に離れることはない。
根負けした渡辺が小さく小さく呟いた。
「走るぞ・・・。」
その言葉に他の3人は小さく頷いた。
「じゃあカウント3で・・・」
渡辺が言う。
「・・・3・・」
天宮が呟く。
「・・2・・・」
羽瀬が唾を飲んで言う。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・
「あれ?」
3人は声をそろえて抜けた声を出した。
「・・・・宮ノ下??」
渡辺は振り向くことなく言う。
「ちょ・・・こんな時にふざけんなよ。」
天宮も振り向かずに言う。
「・・・ねぇ・・・宮ノ下さんの足音が聞こえない・・・」
羽瀬は今にも泣きそうな声で言う。
「おいおいおいおいおい・・・もういい・・・」
渡辺は苦笑して言う。
「走れーーーーー!!!」
渡辺は叫ぶと同時に走り出した。
それに続いて全員走り出す。
しばらく走り続けて疲れ果てた全員は息を切らして重たくなった足を持ち上げるように歩いていた。
「・・・宮ノ下が消えた。」
確認するように天宮が言う。
「・・・・・早く出たい・・こんな山。」
渡辺が言う。
「道がわからない・・・」
確認するように羽瀬が言う。
しかし止まるわけにはいかず歩き続ける3人。
「これは第一の怪談と同じ状況といえる。」
渡辺が冷や汗をかいて言う。
「・・・つまり鬼婆が現れる。」
羽瀬が恐怖に歪んだ顔をする。
ガサ・・・ガサガサ・・・ガサッ・・・
近くの草むらが何かに揺らされる音がする。
「・・・鬼婆・・・」
天宮が顔を引きつらせて言う。
「走れっ!!!」
渡辺が叫ぶ。それと同時に全員は走り始めた。
周りが見えなくなるほど必死に走った。
そして・・・気づくと頂上へと続く道を走っていた。
「ここは・・・・」
渡辺は言いながら走るのをやめた。
「・・・・・・・ちょっと・・・」
羽瀬の声が後ろから聞こえた。
「羽瀬・・・ここって第2の怪談の・・・」
渡辺は振り向いてあまりもの出来事に驚愕して腰を抜かした。
そこにいたのは刀を振りかぶった地蔵だった。
刀は真っ赤に光り輝き、その赤が血であることに気がつくのにそう時間はいらなかった。地蔵の眼は何故か自分をあざ笑うように見えたのは渡辺の気のせいかどうか、そんなことを教えてくれるモノが近くにいるはずもなかった。渡辺はその場で気を失ってしまった。
その後、渡辺を見たものが現れることはなかった・・・。
「ハァ・・ハァ・・ここは・・・」
羽瀬は疲れのせいか縺れそうな足を必死に動かして走り続けていた。
自分が今どこを走っているかなんてわかるわけがなく、しかしそんな事を考える余裕もない羽瀬にとっては走り続けるしかなかった。
走り続ける羽瀬は見覚えのあるものが視界に入り足を止めた。
それは夜跡山の入り口にあった大きな鳥居だった。羽瀬を帰れるかもしれない安心感と他の皆がどうなったのかわからない不安感が同時に襲ってきた。
「どにかく・・・ここをでて作戦を練らないと・・・。」
羽瀬は決心して、そして自分に言い聞かせて歩を進めた。
「ハ~セ~ちゃん・・・」
羽瀬は凍りついた。聞いたこともない冷たく小さな声が羽瀬の耳を通過したからだ。
その声は小さかったのに確実に羽瀬の頭の中を駆け巡った。
「・・・ハ~セ~ちゃ~~ん・・・」
また聞こえた。しかし今度は先ほどより崩れた感じに聞こえた。
羽瀬の足は恐怖で震えて動かなくなっていた。
「・・・や・・だ・・・」
羽瀬は恐怖で凍りついた口を必死に動かして叫ぼうとするが、口が言う事をきいてくれない。
「ハ~~ゼ~~ヂャ~~ン・・・・・」
さらに崩れた声で何者かが言う。その声はもう人のものではなかった。
羽瀬は恐怖で立ち尽くし、首一つ動かす事が出来なかった。
その声の主は一歩一歩近づいてくる。
羽瀬は恐怖を押し殺し、最後の勇気を振り絞って振り向いた。
しかしその行動が失敗だったことにすぐに気づいた。
羽瀬は驚愕した。今まで感じた事のないさまざまな感情が羽瀬を襲う。
羽瀬の視界に飛び込んできたのは羽瀬のよく知る3人だった。
しかし、一人の男、羽瀬の知る渡辺という男は、何かで切り取られたのか片腕が存在していなかった。そして体のいたるところに穴が開いていた。何か鋭利な刃物で刺されたかのように・・・・・。
そして羽瀬の知る天宮という男はもとが人間だったのかわからないほどグチャグチャだった。よくこういった話の小説に出てくる肉片、肉の塊り、肉溜りといった単語そのものだった。唯一なぜか顔だけがはっきりと天宮のそれだった。
「バーゼーヂャーーン・・・・」
さきほどの声の主がもうよく聞き取れない言葉で人間とはかけ離れた声で言う。
その声の主が宮ノ下であることに気づくのは簡単だった。
下半身をもぎ取られたと思われる宮ノ下が肘で這いずってこちらに近づいてくる。
そして時より声を出す。
「ヴぁべびゃーーーーヴん・・・」
もう何を言ってるのかわからない。ただ羽瀬には自分の名前を呼んでいることがなんとなくわかった。
羽瀬は何もかもを諦めてそこに泣き崩れた。
そして頭をよぎる一つの物語・・・・
「・・・第四の怪談・・・か・・・」
羽瀬は恐怖と悲痛で震える口で小さく、しかし確実に最後の言葉を口にした。
そして・・・4人の存在は密かにこの世から消えていった。