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    短編小説

~なくしたもの~

悲しい時は我慢なんてしないで涙を流せばいい。別にそれは恥ずかしい事でもなんでもないから。悲しいのに涙を流せない人のほうがもっと恥ずかしいと思うから。

日下部浩二(くさかべこうじ)は夢を見ていた。
浩二は今見ているものが夢だと気づくのにそう時間は掛からなかった。なぜなら2年前に死んだはずの姉、日下部燕(くさかべつばめ)がそこにはいたからだ。
「――燕、夢に来てくれたんだね。」
浩二は今にも泣き出しそうな顔で燕を見ている。
「ははは、浩二はすぐに泣くんだね。別に泣くなとは言わないけどその癖少しは直しなよ。」
燕が笑顔で浩二の頭を撫でながら言う。
「だって・・・燕・・俺をおいて一人で死んじゃうんだもん・・・。」
浩二は下を向いたままグスグスと泣きながら言う。
「まぁ仕方ないよ。だからっていつまでも私なんかのために心を傷めないでよ。浩二がそんなんじゃ私、いつまでも向こうの世界にいけないしさ。」
「なんだよそれ!!」
浩二は燕の言葉にすぐに叫んだ。でも浩二が叫んだ時には燕の姿はどこにもなかった。
「――――っ!!」
浩二はベットから飛び起きた。頬には何かがつたって落ちたのか薄っすらと跡が残っている。
さっきまで見ていただろう夢はハッキリと頭の中に記憶されていた。
「・・・・2時か。」
浩二は時計をみて独り言を言う。時刻はまだ深夜の2時だ。浩二は頭が働かなくて少しの間ボーっと何をするでもなくベットに座っていた。
「・・・眠れん!・・・・外でも歩こうかな・・。」
浩二は一人でボソボソと言うと簡単に着替えを済ませて外に出た。
外は深夜だけあってかなり暗い。周りはとても静かで人の気配はまったくない状態だ。浩二はあてもなく歩き始めた。


少し歩いたところに結構広い公園があった。公園はとくに遊び道具が置いてあるわけではない。ただ手入れされた芝生が広々とあるだけだ。木々がそれなりに植えてあるため雰囲気は上々と言えるだろう。
浩二は公園の端の方で一人横になった。空を見ると天気が良いため星が数え切れない数輝いている。その中に一つ、やたらと大きく月があった。
「・・・満月・・かなぁ。」
浩二は月を見ながらボソッと呟く。
しばらく空を見ていた浩二は姉の燕のことを思い出していた。
燕のことは今でも何もかも全て思い出せた。浩二はそれだけ燕が好きだったのだ。
「大丈夫、私がいるから大丈夫だよ。」
それが燕の口癖だった。
昔よく俺がいじめられてた時、燕は必ず息を切らせながら走ってきて助けてくれたっけ。その度に自分がいじめられたかのように泣きながら俺を抱いてくれた。
俺を助けに来てくれて、その帰りに必ず燕はいろんな話をしてくれるんだ。その話の中にはよくわからない話もあったけど燕の話しは何故かすごく暖かくてそれだけで俺は満足できた。
ある日、俺がいつものようにいじめられた時、悪ガキどもが燕からもらった俺がこの世で一番大切にしていたものを壊してしまった事があった。
その時も燕はすぐに駆けつけてくれて俺を助けてくれた。そして、いつもの口癖
「大丈夫、私がいるから大丈夫だよ。」
でも俺はその日だけ燕の口癖でも泣き止まなかった。燕は凄く困った顔をしていたっけ。
その日は燕は仕方なく泣いている俺をおぶって歩き始めたんだ。俺は家に帰るものだと思った。でも着いた先は今俺が寝ている公園だった。
燕は俺を背中から下ろして座らせると一人横になっていつもの話をしてくれた。
「ほら、空を見てごらん。さっきまであんなに明るかったのに今は凄く暗い。
でも、暗いのに数え切れないほどの星が明るく輝いてる。月もあんなに輝いていてさ、暗くても暗くないんだ。」
燕の話を聞いていて俺は何を言っているのかまったくわからなかった。
「月はすごく遠くにあるのにあんなに近くに見えてさ、なんだか手を伸ばしたら届きそうだよね。」
そういうと燕は月にむかって手を思いっきり伸ばした。
俺はなに馬鹿なこと言ってるんだって思ってつい笑ちゃった。
「って、届くわけないんだけどね。
あっ!なに笑ってんだよ。」
燕は俺にそう言いながら自分でも笑ってた。
「だって夢でもみてるみたいなこと言うからさ。」
俺はやっぱり笑いながらそう言った。
「まぁ確かに現実には無理だけどさ。あんな近くに見えたらつい手を伸ばしたくなるんだよ。」
燕は笑いながらまた月にむかって手を伸ばしていた。
いつの間にか笑っている俺も燕と一緒に笑って月を眺めていた。その時俺はやっぱり燕が大好きだと再認識したんだ。


燕と公園で話していたら時刻はかなり遅い時間になっていた。
公園の時計は既に8時を過ぎていたのを覚えている。
燕は「そろそろ帰ろうか」といって俺の手を引っぱって座っていた俺を起こした。
いつも助けてもらった跡のように燕は俺の横にならんで歩いて俺と燕は笑顔で喋りながら家路を歩いていた。
俺は燕に今度どこか連れて行ってと約束したんだ。その約束をした時は今まで生きてきた中で一番嬉しかっただろう。
俺は凄くはしゃいでいたんだ。嬉しすぎて笑顔以外の表情を忘れそうなほどだ。
でも、もしあの時あんな約束をしなければ、俺がはしゃがなければ燕は死ななかったんだ。今ならわかる。燕は俺が殺したんだ。
あの後、俺がはしゃいでいた時、俺ははしゃぎ過ぎて転んだんだ。転んだ時俺は近くのフェンスにぶつかった。そのぶつかったフェンスは俺の体重を支えきれずに外れてしまった。そのまま落ちれば俺が死んでいただろう。落ちそうになった俺を燕が抱きかかえて一緒に落ちたんだ。
そのせいで俺なんかの変わりに大好きだった燕が死んでしまった。
今ならわかるんだ。あれは俺が燕を殺したのと一緒。
どうして俺なんかのために燕が死ぬんだ。いつもそうだ、俺なんかのために燕が傷付いて、俺のせいで燕がいろいろなくして。
今なら言える。
「俺なんか無視すればよかったんだ。」
燕は俺なんかに笑顔をくれたり、自分の時間を使って馬鹿だよ。
俺なんかにそんなに沢山のものをくれたって良い事なんかないのに。
今だからこの言葉をあげられる。
「俺なんか無視すればよかったんだ。」
燕が今の口癖を言うようになったのは俺がいじめられ始めてからだった。
「大丈夫、私がいるから大丈夫だよ。」
俺なんかのためにボロボロと惜しむことなく涙を流してくれていつもその言葉を俺に言ってくれた。
何度いじめられても変わることなく
「大丈夫、私がいるから大丈夫だよ。」
俺なんかには暖かすぎて十分すぎるその言葉は俺をいつも救ってくれたんだ。
俺なんか無視すればもっと生きていられたのに。
俺なんかに殺されて・・・・。
燕は死んでしまった。
それだけが俺の頭のなかで永遠と繰り返された。
葬式の時にみた最後にみた燕の顔は何故か笑っていた。
俺は燕の顔を見た瞬間、涙が止まらなくなった。
ずっと我慢していた涙だ。まだ燕に何も返してないのに、もう燕には会えないんだ。そう思ったら俺はさらに涙が止まらなくなった。
「なんで俺なんかのために燕が死ぬんだよ。だから俺なんか無視してれば・・・。」
俺は声にならない言葉で言った。
今ならわかる。燕を殺したのは俺だ。


ずっと自分の世界に浸ってたんだろう。体は冷え切っていて時間もかなり経っているようだった。
気づかないうちに涙を流したのか頬には涙の後が残っていた。
そうとう時間が経っていたようだ。山の陰から太陽の光が少し漏れて空は赤いような青いような色をしつつあった。
俺は急いで起き上がるとそのまま走って家に帰った。
まだ少し時間はある。夢の続きが見れるかもと俺はベットに入って寝た。疲れてたのかすぐに熟睡できた。
夢は願い通り見ることが出来た。夢にはしっかり燕も出てきた。
「また泣いてたの?昔から弱虫だからしかたないか。」
燕が笑って言う。
「だって燕は本当は死なずにすんだのに・・・。」
「馬鹿?あれが私の運命だったんだよ。仕方ないさ。
そんなことでいつまでもくよくよしてないで前を向いて歩いてごらんよ。浩二の周りには浩二の復活を待ってる人が沢山いるんだ。浩二はいつまで周りを待たせ・・・・・・・・・る・・・・・・・・・・」
燕は喋りながら消えてしまった。
でも、今の俺には燕の声は何よりも心に響いて、何よりも重い一歩を踏み出すきっかけになった。
「また、燕に助けられたのかな・・・俺。」
目を覚ますと同時に俺は独り言を言った。
でも今までとは違ってとても爽やかで心が軽い朝だった。
今なら新たに一歩を踏み出せそう、そんな感じだ。新しく一歩を踏み出したとしても俺は燕を絶対忘れないだろう。思い出にもしない。燕は俺の中で一生行き続けるんだ。
きっと燕はそれを望んでる。
これが俺が燕にしてやれる唯一のことだろうから。


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