4月のうちに入学式も終わり、今日は僕のような、部活動にまだ入部していない一年生と部活動をやっている人たちが集まっての部活歓迎会というものが行なわれています。
僕の高校は部活動に熱心で、一年生は全員何かに入部しないといけないみたいです。
野球部やテニス部といった運動系の部活は、実技などを見せたり、文芸部などの文化系は一年の活動内容を紹介したりと、どこの部もみんな個性的で楽しい紹介ばかりです。
そんな中、僕はとても困り果てている。その理由は・・・・・
「ねぇねぇ、あの子入学式の時もみたけど凄く可愛くない?」
「私も今、見てた。男の子だよね?でも凄く可愛い。あそこの列って3組だよね。」
女子生徒たちが部活の紹介も見ないで、そんな事を囁きあっている。その視線の先には僕が確実にいることに気づいてしまったせいか、なんとも居心地が悪い。
それだけならまだよかったんだけど、しかし・・・・・・
「ちっ、なんだ、あの女子の反応は。ムカつくな。」
「あいつもなに目立ってんだ。」
男子生徒が部活の紹介も見ないでそんな事を囁いているのが聞こえる。もちろんその視線というか殺気の先には僕がいるわけで・・・・・
僕は冷や汗を流しながら部活の紹介を見ているのです。
「ねぇねぇ、キミ可愛いね。」
「・・・・はぇ?」
隣にいた女子生徒が小声で囁いてきた。
「携帯の番号教えてよ。この後、どこかに遊びに行きましょう。」
「えっと・・・僕そういうのはちょっと・・・。」
「あなた、ずるいわよ!私が先に目をつけてたんだから。キミ、キミ、名前なんていうの?」
別の女子生徒が割り込んできた。そして、また・・・・。
「キミ、可愛いね。お姉さんがいいこと教えてあげようか?」
「同じ歳で何がお姉さんよ。」
「ちょっと、私だって目をつけてたんだから。こんな色気のないのほっといて、私といいことしに行きましょう」
「きぃー!ムカつく。誰が色気ないのよ!殺す、あなた絶対に殺すわ。」
数人の女子生徒が物騒な会話を囁きあい、睨み合う。そのうち僕を無視して、会話は発展していく。誰か助けて・・・・。
「次の部活動は、なんと一ヶ月前に作られたばかりの部活です。部活名はオールラウンド部?・・・らしいです。」
生徒会のアナウンス役の人が話を進めているみたいです。
オールラウンド部?いったいどんな部活だ?・・・今の疑問はここにいるみんなが思ったんだろうな。そんな事を僕は考えていた。
そして、部活紹介をするために一人の生徒がステージに上がった瞬間に体育館中がざわめいた。もちろん僕も少しはビックリしていた。
「あの子って、浅倉可奈子(あさくらかなこ)だよな。マジで可愛いじゃん。」
「噂は聞いてたけど、あんな可愛いのかよ!」
男子生徒があちこちでそんな事を話している。
騒ぎの原因の女子生徒、浅倉可奈子さんには僕もビックリした。それは、とても綺麗な人だったからだ。そこらのアイドルが束になってもまったく歯が立たないほどの美しさだ。短く切りそろえられた艶のある髪に、絶妙なバランスで整ったスタイル、見栄えのする身長、体育館にいた男子全てが、見とれているのに僕は気づいていた。いや、女子も見とれている。そして僕はというと、オールラウンド部というのがどんなものかが気になって仕方なかった・・・・。
そして、誰もがステージ上の人物から紡ぎだされるであろう美声を想像して待った。
僕は、どんな部なのか説明されるのを待った。
そして、騒ぎの原因の浅倉可奈子さんは、自分が騒ぎの原因になってることに気づいてないかのように、騒ぎなどまったく気にすることなく、静かにユックリとやわらかそうな唇を開いた。
「初めに、オールラウンド部とはどんなことをするのか説明します。」
その声は、きっと誰もが想像していたものよりずっと綺麗で澄んだ声だっただろう。
僕はそんなことより説明が気になっていたのですが・・・。
「オールラウンド部とは、その名の通り、どんな分野でもこなせる、万能である部です。」
その一言に、体育館中が静まり返った。例えじゃなくて本当に静まりかえったんです。
全員、今の一言に驚いていたんだろう。僕も驚いて息を呑んでいた。万能?どんな分野でもこなせる?ふざけているのかなぁ?僕は頭の中にいろんな言葉が湧き出た。
「もちろん誰でも歓迎します。特に1年3組の河井秋凪(かわいあきな)くん。大歓迎です。秋凪くんは、きっと入部してくれるよね?一昨日、夕日で赤く染まった中庭で一人の女子生徒の目に溜まる涙。オールラウンド部はそれにあることないこと、改良に改良を重ねて、もとはどんな話だったのかわからなくなったところで、全世界に羽ばたかせるかもしれない。」
「え・・・ぇえ!」
なっ・・・・・なんで知ってるんですか?浅倉可奈子さん。どこで見てたの?それは脅しなのでは?ちょっ・・・・僕にどうしろと?
「オールラウンド部の部室は東校舎の3階つきあたりにあります。入部希望者は遠慮なく来て下さい。秋凪くんも遠慮なく来て下さい。」
つまりは入部しろと・・・・僕だけなんで強制?なんで・・・・。綺麗な顔して笑ってるけど・・・今の僕にはとても黒く見えるよ。なんか凄く黒いオーラが・・・。
その後、一礼して浅倉可奈子さんはステージを降りていった。僕は一人、俯いていた。その理由は、浅倉可奈子さんと、男子の強烈な殺気が原因です。
そして、部活歓迎会は僕を除いて、平和的に終わった。僕を除いてね・・・。
放課後、僕は東校舎の3階つきあたりの教室に来ていた。
「なんで、こんな事になったのだろう・・・・。」
原因はわかっている。部活歓迎会が原因です。
僕は意を決して、オールラウンド部の立て札があるドアを開けた。
「失礼します。」
その瞬間、僕は何かに覆われた。僕はすぐに、僕を覆うものが人間、しかも女性だということに気がついた。
「ぇえ!ちょっと、あの。」
「いらっしゃーい!」
その声は浅倉可奈子さんのものだった。
「あの、放してください。」
「そうだぞ、可奈子。放してやれよ、嫌がってるぞ。」
僕の言葉に、教室の奥の方から賛成意見が聞こえる。
「ぇえー。そんなことないよねぇ。」
「えっと・・・浅倉さん?出来れば放してほしいです。」
僕はとりあえず放してもらうことに成功した。
「入部希望だよね?」
浅倉可奈子さんが僕に笑顔で聞いてくる。
もちろん僕に拒否権がないのはわかっている。
「はい。入部です。」
「じゃあ秋凪くんは、たった今からこの部の一員です。」
浅倉可奈子さんが僕に笑顔で言ってきた。
「じゃあ自己紹介といくか。俺は藤堂龍魔(とうどうりゅうま)。龍魔って呼んでくれて構わない。」
「私は浅倉可奈子だよ。可奈子って呼んでくれて構わないよ。仲良くやろうね。」
「もうすぐ、あと二人来ると思うから。みんな一年生で秋凪くんと同級生だよ。」
えっと・・・龍魔さんは凄く体格が良くて、何かスポーツをやっているのかなぁ。可奈子さんは体育館で見たとおり凄く綺麗で・・・・でも仲良くやるという選択肢は体育館のあの一言が原因でキツイのでは・・・。
「どうして、強引に僕を入部させたんですか?」
僕はそれが一番に聞きたかった。
「可愛いから。」
可奈子さんから瞬時に答えが返ってきた。
「あとは、今はここにはいない二人がいろいろ言ってたな。」
龍魔さんからも答えが返ってきた。
そして、ドアの開く音が聞こえた。僕はドアの方を見る。
「あら?秋凪さん、もう来ていたの。」
全身を黒い服で包み込んだ美人な女子生徒が入ってきた。その後ろには髪が銀色の、どこかボケーっとした感じの男子生徒が立っている。
「ちゃんと自己紹介しなきゃ。」
可奈子さんが美人の女子にそう話している。
「申し遅れました。私は上条優希(かみじょうゆき)といいます。みなさんは、優希と呼んでいますので秋凪さんも優希で結構です。どうぞよろしく。」
なんか、凄く上品な人だな。どこかのお嬢様なのかなぁ?
「だれ?」
「うわぁ!」
僕がボーっと考えているうちに、近くまで来てたのか、突然話しかけられて僕は飛び跳ねてしまった。
「誰って、お前が会いたがってた秋凪だよ。」
龍魔さんが、銀髪の人に僕を紹介してくれている。
「あー・・・・・んーー・・・そんなことあったっけ?・・・・・・・・・・・・・・・・ぁあ。そうそう、そうだった。」
僕は、そんなどうでも良い存在なのかなぁ・・・・。なのに強制的に入部させられたのか?
「どうも、白雲神児(しらくもしんじ)です。好きに呼んでいいよ。」
神児さんの自己紹介が一番適当だな・・・。
「やっと全員そろったか。じゃあ改めて、こちらが我らのアイドル、河井秋凪だ。丁重に扱ってくれ。」
扱ってくれって・・・僕は道具ですか?・・・この人たちよくわからないなぁ。
「あのぉ・・・・ここってオールラウンド部だよね?入部希望なんだけど。」
ドアの方から、一人の男子生徒の声が聞こえた。4,5人いるみたい。みんなきっと可奈子さん目当てなんだろうな。もしくは優希さん。
「入部希望?ならまずは面接をしなくちゃ。」
龍魔さんがそんなことをいったけど、面接・・・・なんて、僕はなかったぞ?強制入部との違いか?僕も面接やって、そして落ちたかった・・・・。
「面接?だったら早くやろうぜ。」
男子生徒がめんどくさそうに言っている。そりゃめんどくさいよね・・・。
「じゃあ初めに、どうしてこの部に入りたいの?」
可奈子さんが男子生徒・・・めんどくさいから男子Aに聞く。
「えっと・・・万能とか、なんでもこなすっていうのに惹かれたから。」
男子Aはそう答えたけど、顔はしっかり可奈子さんに向けられ、鼻の下はのびている。
「じゃあこの部でやりたい事は?」
今度は男子Bに聞いた。
「えっと・・・・・いろいろやりたいです。」
やっぱり可奈子さんに視線がいっている。ろくな答えは返せなかったみたいだ。
「じゃあ一つ問題をだすね。これに答えられて、銀髪のあの人が認めたら合格。入部OKね。」
可奈子さんはそう言って、神児さんのところにいった。
「あと、よろしくね。」
可奈子さんはそう言って、神児さんの手を叩いた。よく見るバトンタッチの意味だろう。
「・・・・・不合格。」
はぇ?・・・・えっと。突然なにを言ってるんですか、神児さん。
「おい神児。ちゃんと面接してやれよ。」
龍魔さんが笑いながら神児さんに突っ込みをいれているけど・・・笑い事じゃありませんよ。かなりヒドイですよ今の。
「なんだそれ!なめてんのか。」
ほら、お怒りだ。
「ふぅ・・・じゃあ、キミたちの特技は?」
やる気ないですね、神児さん。でも少しはまともな質問だ。
「俺はサッカーなら負けないぜ。」
「俺はそうだな、喧嘩は強いぜ。」
「俺は中学の時、野球部で4番だったぜ。」
「バスケは強いぜ。」
男子A,B,C,Dがそれぞれ得意な事を言っていく。みんなそれぞれ個性があっていいなぁ。オールラウンドを名乗るにはもってこいですね。
「なら、サッカー部にいけば。柔道部や空手部にいけば。野球部がキミを待ってるよ。バスケ部で未来を掴め。」
神児さーーーん。それは、あまりにもかわいそうだよ。なんで、そんなにやる気ないの。
「なんだ、さっきから。何が特技だったらこの部活に入れるんだよ。だいたいテメーの特技はなんだ。」
ご尤もです皆さん。そう言いたくなるのはわかります。
「特技?そんなのない。全て平等に出来る。」
・・・本気で言ってます?
「その言葉は嘘じゃないぜ。神児は神的な天才児だ。なんでもプロ以上にこなす。つまりお前たちは、不合格だ。神児に気に入られた奴しかこの部には入れないんだよ。つまりお前たちは初めから入部できなかったんだよ。」
そんなのありですか?無茶苦茶じゃないですか。
「そういうこと。ごめんね。」
可奈子さんまで・・・・凄い部だな。
「くっ。こんな部、だれが入るか!」
男子生徒はいっせいに帰っていきましたとさ。・・・・・僕はキミたちに一言残すよ。たぶん気に入られなくて良かったと思うよ。
僕はこれから先、どうなっていくんだろう。こんな個性的なかたがたと同じ部に入ってしまって・・・・。