紫呉、浩介、和真の3人は浩介の家の目の前に来ていた。
「いいか、これは最後の戦いだ。俺たちが負ければ俺たち全員の命はない。勝てば全員助かる。単純な戦いだ。しかし相手は強敵、勝てる確率はだいぶ少ない。」
紫呉が和真と浩介を交互に見ながら言った。
「おいおい・・・大丈夫か?」
和真が額の汗を脱ぐって言う。
浩介は下を向いたまま何も反応しない。
「お前の父親が犯人なのはもう変えようのない事実だ。お前は事実を知った上で死という選択を選ぶのか?それとも全員とも助かる道を選ぶのか?どちらかをはっきり今ここで決めろ。」
紫呉が浩介を睨んで言った。
「・・・・・それは・・・助かりたい。」
浩介は下を向いたままボソっと言った。
「ならどんな残酷な事実でも耐えて上を向いて立ち向かえ。」
紫呉がそれだけをいうと浩介の家のチャイムをならした。
「はい、どちら様ですか?」
出てきたのは運の良い事に父親だった。
「あの、今時間はあるでしょうか?少しお話がしたいのですが。」
紫呉が浩介の父親に話しかけた。
「えっと、一応今は暇ですがどんなご用件でしょう?」
浩介の父親は紫呉に微笑みながら話す。
「長い話になると思うのでここではちょっと・・・。」
紫呉が浩介の父親にそういうと父親は紫呉たちを家の中へと案内してくれた。
紫呉たちは客間に案内された。
「どんなお話しですか?」
浩介の父親は紫呉にさっそく聞いてきた。
「最近、ストレスとかは溜まっていますか?」
紫呉はいかにも疑問そうに聞いた。
「ストレスが何かあるんですか?」
浩介の父親は何のことかさっぱりわからない様子だった。
「・・・浩介君とは仲はよろしいんですか?」
紫呉は父親の話を流すようにさらに質問をした。
「仲ですか?普通の家族並には良いと思いますよ。」
浩介の父親は笑顔で答えた。
「浩介君を殺したいとか思うことはあるんですか?」
紫呉は唐突にそう聞いた。
「何を言うんだねキミは。そんなことがあるわけがないだろう。」
浩介の父親は顔色一つ変えずに人を注意する口調で言った。
「・・・・単刀直入に言います。浩介を呪うのはやめていただきたい。」
紫呉は鋭い目をさらに鋭く尖らせて言った。
「・・・何を言ってるんだね。」
浩介の父親は顔色をまったく変えずに冷淡に言う。
「あなたは確か魔術関係の本を昔出版してますね。あなたは浩介に何らかの恨みを持っていた。そしてある時浩介が犬神憑きという事を知ってそれを利用し呪い殺すことを思いついた。そしてあなたは学校で最近妙な噂が立ち始めてるのを知った。その噂が机の中に呪いの紙が入っているとかいうものだ。あなたはすぐにそれが使えると思った。そして、浩介に届け物があるとか言って学校に侵入したあなたは浩介の机の中に紙を入れる。それがこの紙です。」
紫呉は淡々と論説をしながら一枚の紙を出した。その紙は全ての事の始まりとなった呪いの紙だった。
「この紙には昔あなたが出版した魔術の本特有のあるものがありました。それは逆五方星を一番上と紙の裏に書くという二重逆五方星です。普通逆五方星は何個書いたとしても紙の裏に書くなんて事はしません。しかし、とある元魔術師は紙の裏に逆五方星を書くことでそこを召喚獣または潜在能力の覚醒を誘う魔獣の通り道とした。その魔術師の名前は山岸智(やまぎしさとる)、山岸浩介の父親の名前です。あなたは浩介の性格上魔術の紙が机の中に入っていても気にしないと考えていたようだがそれは失敗でした。浩介は俺や和真などと付き合うようになってから魔術などの非科学的な現象も少なからず信じるようになっていた。それはまぁ・・・俺がいろいろと叩き込んだからなんだが、それで浩介は俺に相談してしまった。あんたは人に魔術が知られるのを恐れ、魔術に感染をもたせてしまった、それもまた失敗です。その感染性のせいで俺や和真が魔術に関わりをもってしまった。俺はそのおかげで今回の呪いがクラスの誰かじゃ出来ない事と浩介の事を深く知る人物でなければ不可能と言うことにも気づいてしまった。あんたは―――」
紫呉が淡々と論説をしているところに浩介の父親が割り込んできた。
「もういい、お前の馬鹿げた探偵ごっこの相手などしてる暇はない!帰ってくれ。」
浩介の父親、山岸智は紫呉を睨みながら言った。
「探偵ごっこではありません。これは全て事実を述べた論説です。あなたが浩介に呪いを掛けているという証拠はあるんです。」
紫呉が山岸智を睨み返して言った。
「・・・ほう、ならその証拠とやらを見せてもらおうか。」
山岸智は不適な笑みを浮かべて言った。
「それは・・・・ルッオー・セイム・アー・サム・リー・・・・」
紫呉は突然奇妙な言葉を話し始めた。
しかし、その奇妙な言葉が始まったとたんに山岸智の顔色は見る見る青ざめていた。
山岸智は明らかに何かに覚えているようだった。
「おい!それはサバト魔を狂わす呪文だぞ!!わかってるのか!そんな事した―――」
山岸智は叫びながら自分のミスに気づいたのか突然、口を押さえた。
「今、なんて言いました?サバト魔?なぜあなたはサバト魔と言ったんですか?」
紫呉は山岸智と威嚇するように睨みつけて言った。
「そ・・それは・・・。」
山岸智はさっきまでの不適な笑みとはうって変わって完全に顔が青ざめていた。
「俺はさっきまでの話の中で一度、召喚、潜在能力の覚醒という言葉は口にしました。でも昔、魔術の本を出版したあなたなら知っているはずです召喚、潜在能力覚醒はどちらもサバト魔など一切使わない。しかし山岸智はあえてサバト魔を使う事で危険を顧みずより正確性を持たせようとしていた。それは未だ山岸智以外の人物はやったことも考えたこともないやり方だ。そして、なぜあなたはサバト魔に怯えたんですか?サバト魔は最低でも召喚に2日は掛かる。それはあなたが一番よく知っているはずです。それにもかかわらずサバト魔の理性をなくす呪文を俺が唱えようとした時あなたは怯えた。召喚の呪も唱えていないのにだ。」
紫呉は鋭い目つきで言い放つ。
「・・・・・・あんたは頭がきれるね。あんたがいちゃ呪いは完成しないみたいだ。あんたをココで殺してその後ゆっくり浩介を殺すよ。」
山岸智の目つきが変わり、山岸智は何かを始めようとしていた。
「そんな・・・本当に・・・。」
浩介は床に落ちるように座り込みながら言った。
「そうだ、俺が呪いの犯人だ。俺はお前など必要ないからいらないから殺すんだ。罪にならない方法でな。」
山岸智はさっきまでの態度とはまったく違った。完全に開き直っていた。
「・・・・おい。俺はあんたの魔術は一通り知っている、何をしても無駄だ。」
紫呉が山岸智に忠告のつもりで言う。
「何をする気なんだよ・・・本当に平気か。」
和真が不安そうに紫呉に聞いた。
「・・・確かに、あの潜在能力覚醒系でも最強に近い魔術をあっさりと破ったのは驚いた。だがあんたは俺の最強殺人魔術を知らない。」
山岸智が不適な笑みを浮かべて言う。
「・・・・なぁ、本当に平気か?」
和真が紫呉に聞く。
「ああ、奴の魔術は俺たちには効かないはずだ。」
紫呉が和真に小声で答えた。
「何をボソボソ言っている!」
山岸智が声を荒げて言った。
「・・・・もういい・・・こんなの違う。」
浩介が突然ブツブツと何かを言い始めた。
「なんだ?死ぬ前に何かいいたいのか?何でも言え。冥途の土産に答えてやるぞ。」
山岸智が笑いながら言う。
「俺は・・・あんたを忘れる。俺もあんたは要らない。」
浩介が冷淡に言い放つ。
「そうか、ちょうど良い。俺もお前を要らないからな。殺されてくれるわけだ。」
山岸智が笑いながら言った。
「紫呉・・・こいつ目障りだ。早く消してくれ。」
浩介が俯いたまま紫呉に言った。
「少し待っていてくれ。」
紫呉が微笑しながら答えた。
「消えるのはお前たちだ!」
山岸智が紫呉たちに叫んだ。
「ルー・エム・ソー・エム・イーラウェ・・・・・・」
山岸智が何かの呪文を唱えだした。
「おい!紫呉!!」
和真が紫呉の肩を掴んで言う。
「大丈夫だ。」
紫呉はそれだけ言う。
その間も山岸智の呪文は続いていた。そして全て唱え終えたようだった。
「大丈夫なものか!これは俺の最強魔術だぞ!」
山岸智は笑いながら叫んだ。
「・・・・どうなった?」
和真が不安そうにあちこちを見渡した。
紫呉は微笑していた。
「・・・なぜだ・・・。」
山岸智は紫呉の反応と辺りの静けさに途惑いを隠せないでいた。
「あれ?何もおきてない??」
和真が自分の手や体を見ながら言った。
「・・・馬鹿な!なぜ何も起きないんだ!」
山岸智は額に汗を掻きながら叫んだ。
途惑いの理由は簡単だが山岸智にとっては明らかに不可解な事だった。
確かに完璧にやったはずの魔術がまったく発動していないのだ。
確実に発動して紫呉たち3人を殺すはずだったのに肝心の魔術はまったくもって発動していなかった。
「簡単なことだ。」
紫呉はそう一言言ってその後すぐに妙な言葉を続けた。
「四の神獣、東に青龍・北に玄武・西に白虎・南に朱雀、属する七の宿収めたる。二十八の宿理に通じ術遣いし。我、二十八の宿、五行の理の下、解き放つ。」
その瞬間なにが起きたのだろうか。それは誰も覚えてはいなかった。
ただ気づいたら和真、浩介、山岸智の3人は床に寝ていた。
ただ一人紫呉が全てを知っている。
2時間くらいの時が流れていた。
一番先に起きたのは山岸智だった。しかし2時間前までのさっきはどこにもなく、とても穏やかに見えた。
「・・・鬼道を使うとはね。キミはいったい何ものなんだね?」
山岸智はついさっきまで殺そうとしていた紫呉に優しく話しかける。
「別に普通の高校生です。」
紫呉は即答した。
「そうか・・・今後とも浩介を頼みます。鬼道によって浩介への全ての想いが封印された私はもうここへいる価値がない。」
山岸智は穏やかというよりどこか脱力感がある感じで話した。
「では・・・」
紫呉が何かを言おうとした時にさきに山岸智が口を開いた。
「何も言わなくて結構です。もう浩介には手を出しませんし、浩介の前に姿も現しません。」
山岸智はそれだけを言うと部屋から外へ出て行った。そして少したった後静かに玄関が開いて閉まる音が聞こえた。
それから少し経って浩介と和真がほぼ同時に目を覚ました。
「・・・・浩介の父親は?」
和真が紫呉に聞いた。
「ああ・・・家を出て行ったよ。」
紫呉は一言そう言った。
「・・・・そうか。」
それを聞いていた浩介はボソッと呟く。
どこか嫌な沈黙が流れた。
それは全ての終わりを告げていたが3人にはどこか痛々しい感じのする空気だった。
3人は今回の事件に勝ったのだろうか。そんな事をそれぞれ考えていた。
しかしその答えは誰も教えてくれず答えもでない。
「・・・どこか遊びに行くか。」
和真が場を和ませようと言った。
「そうしよう。」
紫呉と浩介はほぼ同時に賛成した。
そして3人は浩介の家を後にした。
浩介は歩いている最中ずっと下を向いたままだった。
「・・・・浩介・・泣いてるのか?」
それは和真の何気ない一言だった。
「・・・・・・・。」
浩介は何も答えない。それは泣いているのを肯定しているのと変わらなかった。
「泣きたければ泣けばいい。悩むなら悩むなり相談するなりすればいい。愚痴をいたいなら言いたいだけ言えばいいし聞いてほしけりゃ聞いてもらえばいい。お前は一人じゃないんだから一人で苦しみを抱えようとするな。一人じゃ辛すぎる時もあるだろう。」
紫呉が浩介の方を向いて言った。
浩介は少しのあいださらに涙を多く流してただ泣いた。
その涙はきっと3人の中で永遠に忘れられない涙になるだろう。3人はそう思えてしかたなかった。
浩介が落ち着いたあと、気晴らしにと3人は夜までとことん遊び尽くした。時間などまったく気にすることなく遊び続けた。
それでも消えない心の痛みは3人ともそれぞれ残ってはいたけど一人で抱えるよりもずっと軽く痛みも少なかったと3人が思っていた。
そして絶対表にはでない強大な事件は幕を閉じ闇に葬られた。
3人の記憶からは消えることなく。